劇場型不正アクセスと情報との向き合い方

更新日:4 時間前
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インターネット総合大手企業でランサムウェアの被害が起きた
公式情報などが複数出ている一方で未確認情報や恐怖を煽る情報も拡散されている
繰り返しの攻撃予告や脅迫文の公開などがあっても毅然とした対応が重要である
こんにちは、サニーリスクマネジメントです。知らない人はいないであろうインターネット総合大手企業のドメインサービスへの不正アクセスが2026年10月20日に確認されてから1週間が経とうとしています。SNSではある程度影響力のあるアカウントや、該当サービスのユーザーと思われるように見えるアカウントが、「攻撃者を名乗る人物が被害状況や交渉経緯を記したWebサイトを公開している」「ハッカー(当該不正アクセスの攻撃者を名乗る人物と同様かと思われる)からメールが来て、顧客情報が公開されそうで怖い」などの投稿を行い、数日にわたりトピックとして取り上げられています。今回は「劇場型」とも言われる今回のサイバーインシデントを取り上げ、劇場型不正アクセスと私たちができる対応について考えてみましょう。なお、本稿は他のソーシャルメディアで公開したものを一部加筆したものです。
【目次】
大きなサイバーインシデントに関する情報の取り扱いについて
まずここで注意したいのは、何が本当に起きたこと(事実)であって、何が不確実なこと(憶測・出所不明の情報・うわさなど)であるかを明確に分けることである。危機管理の側面からこれに従うと、この不正アクセスに関わる情報の信頼性は次のように大別される:
①最優先:攻撃を受けた企業等からの公式情報今回攻撃を受けた、GMOインターネット株式会社によるリリース(2026年10月27日10時時点での最新は「お知らせ【重要】『お名前.comデスクトップクラウド』への不正アクセスに関する現在の対応について(第8報)」)
②優先:マスメディアの報道新聞・ラジオ・テレビなどを通したマスメディアの報道
③補助・取扱注意:ソーシャルメディア等個人がソーシャルメディアに投稿している情報、またそれらをまとめたもの事実確認が十分でない情報
④犯行声明等攻撃者とされる者が提示している犯行声明・脅迫文などの情報
下記でひとつずつ簡単にその内容や性質、危機管理の側面から見た情報の扱い方について解説する。
①最優先:攻撃を受けた企業等からの公式情報
今回不正アクセスを受けた企業は、公式ホームページのニュース欄で随時本件に関する情報を公開している。その内容としては、対応方針・これまでの対応の経緯・今後起こりうることへの注意喚起・問い合わせ窓口等が記されており、これまでに公表された資料の中にはさらに詳細な情報が示されているものもある。
本件では不正アクセスを受けた企業自身が自社のホワイトハッカーチームなどを活用した対応・解析が行われていたり、当該企業自身がインターネットに関連する企業であること、業界における大手企業であることからコンプライアンスやレピュテーションも意識した情報発信が行われていると考えられる。
②優先:マスメディアの報道
マスメディアは取材等に基づき、報道に関する規定や社則の中である程度推敲や校閲を受けた上で社会での出来事を報道している媒体であり、一定の公益性もあることから、ある程度信頼性は担保されるものと考えられる。ただし、誤報の可能性や、本件では起こりにくいことかもしれないが、政治における立場が問われるようなインシデントに関する報道の場合は、企業によってそのインシデントに対する見方や報道の仕方にばらつきが出る可能性がある。
それを加味しても、マスメディアは被害を受けた企業や専門家等への取材を行った上で報道するため、①に加えて専門家等の視点を加えたり、市民に分かりやすく解説したりするという側面もあり、①と合わせて情報源として見ることができる。
③補助・取扱注意:ソーシャルメディア等
本件についてはソーシャルメディア(SNS)でも多くの情報が飛び交っており、その中には攻撃者を名乗る人物が公開しているとされるWebサイトとしたスクリーンショットや、攻撃者を名乗る人物からのメールとしたスクリーンショットなども含まれている。大きなインシデントが発生するとソーシャルメディアで官民さまざまなところから情報が発せられることは不正アクセスを問わず多くの大きな事件・事故で起こるが、今回も同様にさまざまなアカウントから被害報告、感想や憶測、うわさなどが投稿されている。
その中には不正アクセスにより実際に影響を受けた人物が運営するアカウントによる投稿もあるかもしれないが、匿名のソーシャルメディアでは、誰が実際に投稿しているのかが分からないことと、本物か偽物か分からない情報が流通している可能性があることを意識しなければならない。災害時に偽画像が投稿されるように、「面白そうだから」「注目が集まりそうだから」という理由で攻撃者を名乗る人物からのメールやWebサイトの画像を作成することもできてしまうからこそ、ソーシャルメディア等の事実確認が十分取れていない情報は、あくまでも補足情報として捉えておく程度が無難である。
④犯行声明等
今回の不正アクセスで顕著なのは、攻撃者を名乗る人物が被害状況や交渉経緯を記したWebサイトを公開しているという点にある。しかし、これも本当に攻撃者とされる人物または組織そのものが公開したものなのか、そこに書いてある情報は本当なのか、あるいは脅迫のために大きな数字を書いているのかといった点には注意が必要であり、検証なしに信じることはできない。
そして、前述のようにソーシャルメディアでこのようなWebサイトの画面と思われるもののスクリーンショットなどが投稿されているが、こうした形で攻撃者と思われる人物または組織による脅迫文や彼らの主張する取得した情報等の「実績」を拡散することは、彼らの思う壺である。また、当該Webサイトにアクセスすることで個人情報を収集されたり、不正なプログラムなどに接触してしまったりする可能性もあるため、攻撃者と思われる人物または組織によって公開されている情報は見ない・拡散しないことが最善である。
劇場型と不正アクセスに対する向き合い方
本稿では『我々は「劇場型」不正アクセスに対しどのように向き合うべきか』という問いを掲げているが、最後にこれについて少しだけ考えたい。本件の攻撃者と思われる人物または組織による行動は、ある種テロリズムの犯行声明に似たものがあり、ただ「我々が実行者だ」と示すだけではなく、「これだけの成果がある」ということを形式上示すことになった。一部の報道機関も本件について「劇場型犯行」と報じている。
本件について不正アクセスを受けた企業は攻撃者に取得された情報の削除や不正利用の防止が保証されるものではないため「攻撃者の要求には応じない」と毅然とした姿勢を見せているが、先述のような脅迫や繰り返しの攻撃予告は、不正アクセスを受けた企業や該当するサービスの利用者にとって非常に大きな恐怖を与え、また、不正アクセスを受けていない企業や影響を受けていない消費者等に対してもランサムウェア(身代金要求型ウイルス)の脅威をまざまざと見せつけるものであった。
これはある種、テロリズムにおける報道と似た側面もある。警察庁組織令第四十条一号に基けば、テロリズムとは『広く恐怖又は不安を抱かせることによりその目的を達成することを意図して行われる政治上その他の主義主張に基づく暴力主義的破壊活動』つまり、
広く恐怖や不安を抱かせて主義主張を知らしめるなどすること
政治的主張やその他の主義主張に基づくこと
暴力主義的破壊活動であること
という3点を全て満たすことが要件であり、本件では政治的主張等の拡散を欠いている可能性があることに加え、サイバー空間での個人情報の窃取等というバーチャルで大きな影響をもたらしているが、現実に過去のテロリズムのように建物などの直接的な破壊が起きたとはいえないため、本件がテロリズムであるという主張はしない。しかし、本件における先述までのソーシャルメディア等での反応を見ると、テロリズムに関する次の言葉が流用できるかもしれない:
Terrorism is theater. (B., M., Jenkins, 1974)
テロリズム研究の父として知られるジェンキンスは、1974年にテロリズムの例えとして「テロリズムは劇場である」という言葉を残し、9.11同時多発テロ以降はその理論に変更が出てくるものの、現在でも実行者がテロリズムという形で大衆を翻弄し、自らの主張や能力を世間に知らしめようとするという試みは続いているだろう。問題は、テロリズムや大きな事件・事故、また本件のような大規模なサイバー攻撃等はセンセーショナルな側面も強く、さまざまなメディアを通して多くの人に影響を与える、そしてその報道や情報発信すら攻撃者の期待に沿う行動になる恐れがあるということである。
最後に『我々は「劇場型」不正アクセスに対しどのように向き合うべきか』に対する現時点での答えを出すならば、不正アクセス等を受けた企業は警察等と連携しながら、攻撃者の要求に応じず毅然と向き合い、ステークホルダーに可能な限り適切な情報提供や対応を行うこと、そして該当するサービスなどを利用している消費者は企業からの情報を受けて個人情報の保護に対する措置や調査への協力などを可能な範囲で実施すること、影響を受けなかった人々は攻撃者と思われる人物または組織による脅迫文や攻撃先の個人情報などが公開されてもアクセスや拡散をしないといったことが挙げられるだろう。不正アクセスなどがあれば当然、大きな恐怖や不安を感じ、さまざまなところで懸念が出てくる。しかし、その恐れを認めながらも攻撃者の要求には応じない・攻撃者による情報発信を拡散しないという確固たる信念も必要である。
2026年10月27日21時追記:本件に関して、攻撃者とされるハッカー集団が「交渉に応じなかったため」として攻撃を受けたサービスの利用者のものと思われる詳細な個人情報を公開し、毎日個人情報を順次公開するとした。これに対し攻撃を受けた企業は本件に関する第12報で「攻撃者とみられる者からの要求には永久に応じない」とした上で情報の不正な公開や拡散を控えたり、本件に便乗したフィッシングや詐欺に注意したりするよう呼びかけたほか、報道関係者においても二次被害のおそれのある過度な報道を控えるよう依頼した。さらに、内閣官房も27日午後の定例会見で本件を「卑劣な行為」として非難し、関連して発生しているFXの不正取引等の被害も含めて国民の財産に被害が及ぶおそれがあるものと認識していることや、緊急対策パッケージの取りまとめ等について説明した。
2026年10月28日16時追記:攻撃を受けた企業は本件に関する第13報で、攻撃者が窃取したとされる情報の掲載されていたWebサイトがテイクダウン(要請や法的手続によってインターネット上のコンテンツやサービスを強制的に削除・停止させること)されたことを発表。万が一再び同様のサイトが立ち上がった際の対応や本件に関する悪質なサイトやその内容のアクセス・リンク・転載・SNS投稿などの拡散について、控えるよう呼びかけた。




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