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執筆者の写真Hinata Tanaka

熊から社会を守る

こんにちは、サニーリスクマネジメントです。

日中と夜間の寒暖差が激しくなり、徐々に冬の足音が聞こえてきている昨今ですが、現在国内で深刻な課題のひとつとなっている「熊問題」が今秋さまざまなところで議論されています。


今秋の熊被害、統計開始以来最多に


今年4月から10月中旬までに確認された熊による人的被害は160件以上、死者は5名となっており、特に秋田県や岩手県で多く発生しています。熊による人的被害は東北を中心に確認されていますが、最南では京都府や島根県など近畿、中国などでも確認されています。死亡事例やドクターヘリ等での搬送事例も多く、今年の熊の出没や被害はより甚大です。また、東京都町田市などの多くの人がレジャーで利用する場所の付近や、一度は熊が絶滅したと考えられていた伊豆半島でも出没が確認されています。


環境省の統計では、これまでは2020年の被害者158名が過去最多となっていましたが、今年はすでに10月で3年前の数値を上回り、過去最多の被害となっています。全国各地で続々と熊による被害や目撃が相次いでいる中、2023年10月24日、環境相は、人里周辺に生息する熊の調査や捕獲支援について、各地域のニーズに応じた緊急支援の実施を検討することを発表しました。


緊急支援の内容は


緊急支援策は特に被害の大きい北海道、青森県、秋田県、岩手県の4道県を対象とし、各道県内の市街地と山間の中間地域に対して行われます。支援内容は熊の駆除に使用する銃弾等の費用の補助や熊の冬眠場所の特定等を想定しており、各地域のニーズを踏まえながら具体的な支援策が構築される見込みです。


また、近く関係省庁連絡会議を開催する方針も示されており、環境相は国民に対し、熊との距離を確保することや、熊が冬眠に入る12月頃まで細心の注意を払うことを呼びかけています。過去最速ともいえるペースで熊による被害が加速していると思われる今秋、いかに迅速かつ的確に地域別に細やかな支援ができるかが肝となります。


プロにできること、住民でできること


熊をはじめとした人間に危害を与えかねない獣類に関しては、毎年各市町村で決められた一定数の個体が猟友会員などの狩猟者によって駆除されています。また、熊が出没しやすい地域では、古くから熊から身を守る方法が地域文化として根付いていたり、自治体等からの広報が盛んであったりと熊を警戒する風土があると考えられます。登山者や住民においても、各自で熊避けスプレーや鈴を持っている人も多いでしょう。ただ、毎年狩猟者の人数は減少傾向にあり、また、今年のような大量かつ広範囲に熊が出没する場合、思わぬところで熊に遭遇するリスクも十分大きいと考えられます。


インターネットやSNSでは、「熊を駆除するのは可哀想だ」という声が多く上がっています。例えば、2023年に駆除されたヒグマ「OSO18(オソじゅうはち)」を巡っては、OSO18を駆除した狩猟者やOSO18の母熊を駆除した札幌市に抗議の声が相次ぎ、札幌市には約650件の抗議や批判の連絡がありました。OSO18については2019年頃から乳牛を狙った動きが見られており、何度も出没や家畜の被害が発生していたほか、時の経過とともに牛舎や民家に近いところに出没するようになったり、OSO18の知能の高さが窺い知れるような行動が多く見られたりしていました。次にいつどこで出没するか分からない熊と人間の間の緊張の高まりと、高度な知能を持ち行動する熊を捉えることの難しさの中でようやく行われた駆除でしたが、一時的に一部国民から批判が発生しました。


このほかにも熊を駆除したという報道が出るたびに、駆除した自治体や狩猟者に対して抗議や批判が向かっています。近年国内ではアニマル・ウェルフェアの動きが高まり、「動物を殺すのはよくない」「熊を駆除するのはかわいそうだからやめて」という声が聞かれるようになりました。一方で実際に熊が出没する場所の住民や熊の恐ろしさを知っている人々からは「熊を駆除してくれ」という声も当然ながら上がっています。


人間の暮らすところに出没し、時に人家や財を襲う凶暴な熊も動物であることに変わりはありません。しかし、自然界のヒエラルキーの観点から考えてみると、本州最大の肉食獣であるツキノワグマには天敵はおらず、ヒグマも虎が天敵となる可能性がある程度です。一説には狼が熊の天敵になるともいわれていますが、いずれにせよ虎は本来日本に野生では生息しておらず、狼も絶滅したとされていますから、熊には天敵がいない、文字通り「無敵」なのです。むしろ、熊という生き物は「熊の天敵は熊」と言われるほどの動物なのです。ただ、私たちが現在暮らしている日本の山には前述のような狩猟者がいます。狩猟者や猟銃が熊の唯一の天敵ともいえるでしょう。


普段は人間の住むところに出ず、山の中で暮らしている熊たち。しかし、時期や個体によってその一部は人間の居場所を訪れます。私たち市民は、熊に襲われないために常に身の安全を確保することが重要です。また、安全安心な居住環境を求めるならば、人々が熊に襲われるリスクを小さくするための駆除や捕獲の取り組みにも、人間と熊の歴史や熊の生態、過去の事例などの多角的な情報を踏まえながら熊対策にも理解を持って歩みよならければならないかもしれません。



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