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執筆者の写真Hinata Tanaka

ナゴルノカラバフのこれまでと今

こんにちは、サニーリスクマネジメントです。

2023年9月19日、アゼルバイジャン国防省はアルメニア共和国との係争地であるナゴルノカラバフ共和国に対して「対テロ作戦」を開始したと発表しました。

アゼルバイジャン共和国とアルメニア共和国、またそれらの付近の国家との関係やこれまでの両国間の状況を見ながら、ナゴルノカラバフ共和国のこれまでと今を見てみましょう。


アゼルバイジャンとアルメニア


まずはナゴルノカラバフ共和国の係争の当事国であるアゼルバイジャン共和国とアルメニア共和国ならびにその周辺についてみてみましょう。両国は南コーカサスという地域に属しており、アゼルバイジャン共和国はカスピ海に面した国で、ロシア連邦、ジョージア、イラン・イスラム共和国に接しています。アルメニア共和国はアルメニア高原に位置する内陸国で、ジョージア、トルコ共和国、イラン・イスラム共和国に接しています。

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さらにアゼルバイジャン共和国とアルメニア共和国にフォーカスした形で南コーカサスを見てみましょう。

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アゼルバイジャン共和国には、アルメニア共和国を挟んだ飛地でナヒチェヴァン自治共和国があるほか、事実上「アルツァフ共和国」(首都:ステパナケルト/ハンケンディ)として独立した係争地ナゴルノカラバフ共和国が存在するほか、アルメニア共和国の範囲内にナヒチェヴァンの北にカルキという都市を、アルメニア北東部にカザフ県という行政区分を有しています。また、アルメニア共和国も、アゼルバイジャン共和国の範囲内にアルツヴァシェン村という飛地を有しています。


アゼルバイジャン共和国もアルメニア共和国も旧ソ連の構成国であり、アゼルバイジャン共和国は1991年8月30日に、アルメニア共和国は同年9月21日にそれぞれソヴィエト連邦から独立しました。アゼルバイジャン人とアルメニア人、あるいはアゼルバイジャン共和国とアルメニア共和国、ナゴルノカラバフ共和国の対立や衝突は旧ソ連構成国時代から続いていましたが、アゼルバイジャン共和国の独立宣言直後にそれまでアゼルバイジャン・ソヴィエト社会主義共和国におけるナゴルノカラバフ地域に住んでいたアルメニア人の多くはアゼルバイジャン共和国の独立宣言から離脱し、アルツァフ共和国を建てました。これにより、1994年から第一次ナゴルノカラバフ戦争が発生し、ナゴルノカラバフ地域は事実上独立することとなりました。ただ、政権の変動による両国政府の影響力の変化や新型コロナウイルス・石油価格下落等の社会不安から2020年に第二次ナゴルノカラバフ戦争が発生、2020年11月までに4度の停戦合意を行っており、4回目の停戦合意以降は大きな軍事行動は見られていませんでした。


第二次ナゴルノカラバフ戦争前後の南コーカサス


では、今回のアゼルバイジャン共和国による「対テロ作戦」直前までのナゴルノカラバフ共和国周辺の状況をみてみましょう。この紛争では、アゼルバイジャン共和国にはトルコ共和国、シリア国民軍(アゼルバイジャンは否定)が加勢、またイスラエル国が武器供与を行い、アルメニア共和国にはアルツァフ共和国、シリアの傭兵、クルディスタン労働者党(トルコ・イラク・シリア等で活動するクルド人の独立国家建設やトルコ系クルド人の権利を求める武装組織)、クルド人民防衛隊(シリアに存在するクルド人の政党「クルド民主統一党」の軍事部門)が加勢、ロシア連邦が武器供与を行いました。


はじめに、第二次ナゴルノカラバフ戦争初期の主な戦闘を確認してみましょう。赤の三角で示したのは2020年9月27日から28日にかけて戦闘が行われた主な区域です。この戦争においては両国が互いに相手国が先に攻撃したと主張したため、どの地域でどの国の兵士が先に軍事行動を起こしたかまでは完全には明らかになっていません。ただ、2日間で、アゼルバイジャン共和国とアルメニア共和国の実効支配している地域の境界をはじめとして複数箇所で戦闘が発生したことが分かります。

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BBCなどをもとに作成


下に示すのは、2020年9月、第二次戦争発生当初の区分けです。青がアゼルバイジャン共和国やアゼルバイジャン人による支配区域を、赤がアルメニア共和国やアルメニア人による支配区域を示しています。

地図

BBCなどをもとに作成


はじめはアルメニア共和国・アルツァフ共和国方がナゴルノカラバフの多くを有していましたが、3度にわたる停戦合意と戦闘の再発を繰り返すうちにアゼルバイジャン共和国方が優勢となり、そのまま4度目の停戦となりました。第二次ナゴルノカラバフ戦争の停戦直後、2020年12月の支配地域はこのように変化しています。

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BBCなどをもとに作成


上記のような区分で第二次ナゴルノカラバフ戦争は停戦となりましたが、アゼルバイジャン共和国は2022年12月にアルメニア共和国とナゴルノカラバフを結ぶLachin Corridor(ラチン回廊)の利用を制限し始めているとされ、アルメニア共和国は、回廊は飛地に配置されている兵士に対して武器を密輸するために使用されていると主張しています。


2023年のナゴルノカラバフ


ナゴルノカラバフ当局は、2023年9月のアゼルバイジャン共和国による「対テロ作戦」に伴ったアゼルバイジャン軍の攻撃により、27名が死亡、200名が負傷したと発表しています。一方のアゼルバイジャン軍によれば、ナゴルノカラバフの区域内でアルメニア軍が活動しているとし、航空機やミサイルを用いて軍事拠点を攻撃、60ヶ所以上を制圧しているとしています。また、アゼルバイジャン国防省は19日に、治安部隊の隊員など6名がナゴルノカラバフにてアルメニア共和国側が設置した地雷によるテロで死亡したとして「限定的な対テロ作戦」を実行、アゼルバジャン大統領府はナゴルノカラバフ共和国側が武器を放棄し軍事組織を解体するまで作戦を続けると表明しており、ナゴルノカラバフ共和国側の全面降伏を狙いとしていることが明らかになっています。


今回のアゼルバイジャンによる「対テロ作戦」では、アゼルバイジャン共和国とナゴルノカラバフ共和国(アルツァフ共和国)が当事国となっていますが、今後の出方が気になるのが、ナゴルノカラバフに平和維持部隊を派遣しているロシア連邦とアルメニアの隣国でコーカサス地方に近い地域での大きな国・トルコ共和国です。すでにアルメニア共和国については大統領がアゼルバイジャン軍の攻撃を「挑発」として非難した上で、軍事行動はとらないことを表明しています。ロシア連邦は大統領報道官が緊張の高まりを懸念するなど自制を求める姿勢を示しており、一方のトルコ国防相はアゼルバイジャン国防相と電話会談を行いアゼルバイジャンの行動を全面支持すると明らかにしています。


戦局を握るかもしれない2つのルート


米シンクタンクのCouncil of Foreign Relationsによれば、2023年9月9日、アゼルバイジャン共和国とアルメニア共和国の共同で、アゼルバイジャン共和国とナゴルノカラバフ北東部を結ぶAghdam Road(アグダム道路)及びアルメニア共和国とナゴルノカラバフ南部を結ぶLachin Corridor(ラチン回廊)を同時に再開する妥協案を発表していました。ただ、回廊の通行が実際に再開したのかは明らかになっておらず、そのような状態の中で今回の軍事行動が始まったのでした。

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Council of Foreign Relations の内容をもとに作成


回廊の封鎖により、ナゴルノカラバフ共和国の住民に対する食糧・医薬品などの供給は大きく阻害され、またインフラも停止を余儀なくされているため、衣食住や交通・水道・医療などへのアクセスが断たれているとのことです。ナゴルノカラバフでは、軍事行動が起こる以前に物資不足や少量不足に伴う一般市民の死亡が発生しています。


これまでのナゴルノカラバフにおける紛争ではきまって周辺国が加勢したり武器供与を行ったりしていましたが、今回はアルメニア共和国が軍事行動を取らないことを表明したり、黒海を挟んだすぐ近くのウクライナで2022年からのロシアによる侵攻に伴う戦闘が続いていたりと、これまでとは大きく異なる状況で当事国も変化しています。


戦争において最も重要な要素は兵站(へいたん)、ロジスティクスであるとよく言われますが、まさに今回、アゼルバイジャン共和国・アルメニア共和国双方のナゴルノカラバフへのロジスティクスである2つのルートの行方も重要かもしれません。すでに軍事行動が発生した状態ですが、今後更なる激化を防ぐためにも、まずは外交ベースでのアプローチを試みる余地を見つけ、実践していかねばらないでしょう。





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