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執筆者の写真Hinata Tanaka

海保機事故の影響及び対応について

更新日:2月10日

こんにちは、サニーリスクマネジメントです。

今年に入ってから事故や重大インシデントに加え悪天候もあり、しばしば中規模〜大規模な欠航や遅延がみられている空の便。

年度末から年度初めに差し掛かる2月から3月は人の往来も増えることが予想され、今後も更なる安全・安心な運航が望まれています。


今年1月1日に発生した令和6年能登半島地震から約1ヶ月が経過しました。今月2日で発生から1ヶ月となった羽田空港航空機衝突事故は、運輸安全委員会による調査が進められています。


今回の記事では、国の資料や報道等をもとに、事故の性質や経緯、各機関のクライシスマネジメント等について考えてみます。この記事において、本件については、運輸安全委員会による調査並びに報告書の公開が完了していないことから、国や報道機関によって公開・報道された情報の整理を中心に展開します。


事故概要とその影響


当該事故は、2024年1月2日午後5時47分頃に発生しました。事故は東京国際空港(羽田空港)のC滑走路上で起き、日本航空のエアバス式A350-941型と海上保安庁のボンバルディア式DHC-8-315型が衝突し火災が発生。海保機に搭乗していた5名が死亡し、1名が救急搬送された航空機同士の衝突事故でした。


事故の発生したC滑走路は消火活動や現場検証等のために閉鎖され、1月8日午前0時に運用を再開しました。C滑走路の封鎖に伴い羽田空港を発着する航空便は連日200便以上が欠航するなど、事故発生時に航行していた便の代替着陸等も含め、交通に大きく影響しました。


海上保安庁羽田航空基地は、この事故を受けて航空機(飛行機/ヘリコプター)の運用を当面停止。同庁及び同基地は、安全体制の再確立と隊員のメンタルケアが必要であると判断しました。

基地に配備されていた固定翼機は4機で、中型機1機が1月2日の事故で炎上、大型機1機が1月4日に作業車両との接触で主翼を一部損傷し飛行不能、また、前述の中型機・大型機と同型の各2機は国外で定期点検を実施している最中で、1月4日までに基地の固定翼機4機が全て使用できない状態に。このうち定期点検を実施中の中型機1機は1月12日に整備を終了していますが、同庁は隊員のメンタルケアや安全教育を優先する姿勢を見せました。


国土交通省の対応


事故発生後、政府・羽田空港・海上保安庁・日本航空・東京消防庁・警視庁・国土交通省など各機関や各社が事故の対応や検証を行なっています。また、現在は、運輸安全委員会が事故に関する調査を実施している状況です。

今回は、国土交通省の記者会見・報道発表から同省の動きを見てみましょう。国土交通省は、令和6年能登半島地震に関わる緊急対応の一方で、航空については主に次のような対応を示しました:


9日午前11時の大臣会見で、『現時点で把握している客観的な情報をもとに、直ちに取り組むことができる安全・安心対策』として取りまとめられた緊急対策が発表されました。この緊急対策は、1月8日までに全国の空港で実施しているものから、月内に主要空港で順次実施予定としたものまで、基本動作やルールの徹底、監視体制やコミュニケーションの強化の観点から5つの大きな対策が講じられました。

②運輸安全委員会の調査報告を待たない検討委員会の立ち上げ(9日)

同会見で、外部有識者を含めた検討委員会の早急な立ち上げを検討していることが示されました。9日時点では詳細を12日に発表する予定とし、パイロットと管制官への注意喚起システムの強化やパイロットと管制官の交信に関する見直しの必要性等について取り扱うという方針を明らかにしました。

③海上保安庁に対する緊急安全対策の指示(9日)

国土交通省は、事故当日の2日に安全運行の徹底を指示したほか、5日にマニュアルの緊急点検や履行状況の確認等を行うことを指示しました。

④『羽田空港 航空機衝突事故 対策検討委員会』立ち上げ(1月12日)

12日午前11の大臣会見で、9日に発表していた検討委員会の立ち上げが発表され、第1回委員会を19日に実施する方向性を提示しました。大臣は対策について、抜本的な対策は運輸安全委員会の調査を受けて行われなければならないという見解を示しながらも、事故防止には対策できるものは可能な限り速く、多重的に講じることが重要であると述べたほか、検討委員会では、客観的な情報や外部有識者等の知見をもとにハード・ソフト両方での対策を検討するとしました


検討委員会の動き


1月19日午後1時から開催された羽田空港航空機衝突事故対策検討委員会の第1回委員会では、事故の概要と羽田空港における管制運用・安全対策の現状、委員会での論点が扱われたほか、委員による意見交換が行われました。


意見交換では、主に4つの観点から意見が述べられました:

ゼネラルな対応

  • 当該事故に限定せず、滑走路誤進入防止の全体的な対策を講じる

  • 人的要因・運用・技術の問題を一体的かつ複合的に捉える

  • 地方空港においても安全対策を検討する

  • 航空業界を挙げて課題解決に取り組む

リスクコミュニケーション/クライシスコミュニケーション

  • 現場の意見を取り入れたり、適切な情報発信を行なったりする

  • 管制通信の齟齬防止を含めたコミュニケーションのありかた

  • 滑走路誤進入に対する段階的対応

ヒューマンエラー

  • ヒューマンエラーは必ず起きるもの、エラーが直ちに事故に繋がらないよう技術でのサポートが必要

  • (停止線灯について)パイロット側の視認性と管制官側の操作負担の兼ね合い(=リスクトレードオフ

  • 滑走路や誘導路の使用方法や航空灯火の輝度の再検討

業務とデジタル化

  • 管制処理の効率性維持と安全性向上のための手法づくり

  • 管制官の業務負荷が増えない安全対策が必要

  • 情報の一元化などの管制官の負担軽減策も検討する必要がある

  • 中長期的には管制官とパイロットを支援するデジタル技術の開発や導入が求められる

  • 管制業務での機械学習等の活用も考えられるが、アナログとデジタルのすみわけや最終的には人間の判断を重視することが重要となる可能性

検討委員会は、1月19日の第1回委員会以降、毎月1〜2回開催するものとし、夏に中間とりまとめを行うものとしています。


国交労組の声明


国土交通労働組合は、2月6日に『2024年1月2日に発生した航空機同士の衝突事故を受けて(声明)』を発表しました。声明では、事実に基づく情報のみの発信を望むことを発信するとともに、国土交通省が1月6日から羽田空港で実施している滑走路誤進入の常時レーダー監視に関する人員配置に対する早急な管制官の大幅増員を強く求めることを表明しました。


滑走路誤進入の常時レーダー監視は、国土交通省が1月9日に発表した『航空の安全・安心確保に向けた緊急対策』の中で示されていたもので、羽田空港では1月6日から、レーダーを設置している成田・中部・伊丹・関西・福岡・那覇の各空港でも順次実施予定とされています。 声明によれば、この人員配置は新規増員ではなく、内部での役割分担調整によって捻出するものとされていることに加え、管制取扱機数が増加する一方で管制官が増員されないために管制官一人あたりの業務負担が増加しているといった現状があるとされています。


1月19日の検討委員会第1回委員会でも管制の現場の業務負担についても考慮すべきという意見が出ており、今後の議論の中で、ミスやヒヤリハットを防ぐことだけでなく、その一環として管制官の業務負担をいかに解消するかも論点となることが期待されます。


当該海保機の動向


ロイターは1月5日、海上保安庁関係者への取材で、衝突した海上保安庁の機体が令和6年能登半島地震への対応で事故以前の24時間以内に2回飛行していたことが明らかになったと報じています。

同記事によると、当該機の事故以前24時間の主な動向は次のようになります:


表1 令和6年能登半島地震発災から事故までの当該機の主な動向

1月1日

午後4時6分

石川県能登地方でM5.5の地震発生、最大震度5強


午後6時頃

羽田空港離陸、富山県・佐渡島・新潟県沿岸を飛行し被害状況確認


午後9時半頃

羽田空港着陸


午後11時頃

羽田空港離陸、特殊救難隊を乗せて小松空港へ向かう

1月2日

午前2時半頃

羽田空港着陸


午後4時45分

羽田航空基地の格納庫を出る(新潟航空基地へ物資を輸送する予定)


午後5時46分

離陸準備、滑走路上で日本航空の着陸機と衝突

表に示した動向と当時の旅客機の運航を総合的に考慮すると、当該機は旅客機の発着の合間を縫うように羽田空港と被災地を行き来していたことが窺えます。


令和6年能登半島地震は半島で発生した地震であることから、その地形上、地震と津波で道路が寸断されたり、港湾施設が大きく被災したりして、特に半島北部へのアクセスが非常に困難な状態が続いており、発災直後に顕著でした。陸路が使用できず、海路からの搬入も難しい状況では、航空輸送に頼らざるを得ず、当該機もファーストレスポンダーとして緊急飛行を行なっていたものと考えられます。


災害時の運用スキームの再検討を


大規模災害や局地的災害では、全国から被災地に向かって様々な機体が集まります。まず、ファーストレスポンダー(自衛隊・警察・消防など救助等を担う機関)の機体が、各駐屯地や基地、空港等から率先して集合します。このほかにも、政府・省庁や都道府県・市町村関係、報道関係など、時間の経過とともに多様な主体の機体が航行し、入れ替わり立ち替わり、航空機の移動が発生します。


当該事故と災害の関連性は現段階では明確には示されていませんが、災害等の緊急時におけるファーストレスポンダー等の安全かつ迅速な緊急飛行と旅客・貨物航空における安定性や安全性のバランスや円滑さを考慮したスキームの再検討が必要になる可能性があります。

政府・関係各省庁・拠点空港・都道府県・市町村・ファーストレスポンダー・航空会社等の各ステークホルダーが災害時の航空の運用について認知し、訓練等を通じて相互理解を深めていくことも、安全かつ安定した運用に繋がるでしょう。


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