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タンカー事故と海洋汚染

執筆者の写真: Hinata TanakaHinata Tanaka

こんにちは、サニーリスクマネジメントです。突然ですが、皆さんは水族館に行ったときにどんな海の生き物を見ますか?群れになって泳ぐイワシでしょうか、それとも悠々と漂うクラゲでしょうか…?そんな水族館でも花形といえる生き物に「イルカ」がいますね。

 

イルカショーでも人気で知能も高く可愛らしいイルカですが、今、その一部が絶滅の危機に瀕しています。そのきっかけとなったのは、2024年末にロシアで発生したタンカー2隻の座礁事故。この事故で流出した重油の量は過去の重大な事故と比較すると多くはないのですが、その流出場所は絶滅危惧種のイルカたちが暮らす場所でした。今回の記事では、タンカー事故と海洋汚染の関係についてみていきましょう。

 

タンカー事故とは…なぜ起こるのか、その被害は

 

そもそも「タンカー事故」とはどういった事故を指すのでしょうか。ここでは、石油類を輸送するオイルタンカーが座礁したり、他船や海上の浮遊物等に衝突したり、火災を起こしたり、船体が破損したりすることを「タンカー事故」として扱います。

 

例えば近年日本近海で発生し大きな被害をもたらしたのが、1997年1月に隠岐島沖で発生したロシア船籍「ナホトカ」号事故です。日本の調査ではこの事故は船体の腐食・消耗により強度が低下していたことに加え、日本海での激しい波浪に耐えられず船体が破損したことで発生したと考えられています。

 

ナホトカ号事故は、まず隠岐島沖で船首を折損。これにより、積載していた重油19,000klのうち推定約6,200klの重油が流出し、さらに推定約2,800klの重油を残したまま福井県まで漂流しました。加えて残った船尾は推定約9,900klの重油を積載したまま海底に沈没。重油の流出は隠岐島沖から秋田県にまで広がり、その中でも船首が漂流した福井県を中心に1府8県では重油が海岸にまで漂着。この事故では、各地の漁業に影響が出たり、海洋生物や海鳥などの生態系に影響が出たりしました。

 

このほかにもタンカー事故には、最も割合が高い座礁をはじめ、他船等との衝突、船内の火気などが積載物に引火する火災などさまざまな原因があります。そして、これらタンカー事故の多くは人為的な原因によって発生することが明らかになっています。

 

Rothblumら(2002)は、タンカー事故の少なくとも80%で、その事故の背景に過重労働・専門技術の不足、コミュニケーション不足、古い海図を使用しているなどの人為的なミスが関わっていると示唆しています。事故が発生すれば、海洋環境への影響以前に、乗組員を失ったり荷主に影響が出たり、他船にまで影響を及ぼしたりする上、事故が発生した海域の海上交通も停滞させます。海上火災や重油流出に至ると鎮火や油防除にも多大なマンパワーやコストが必要になりますから、タンカー事故は起きないに越したことはない事故のひとつなのです。

 

タンカー事故と海洋汚染の関係

 

タンカー事故で油が流出すると漁業や生態系に影響が出る点については先述のとおりですが、ここで最新事例からその関係を見ていきましょう。今回は最新事例として、2024年12月15日に黒海とアゾフ海(黒海北東部の内湾)を繋ぐケルチ海峡でロシアのタンカー2隻が座礁・重油が流出した事故を検討していきます。

 

この事故で座礁したタンカーのうち1隻は、マズートという重く低品質の燃料油を4,300t積載していたことが明らかになっています。マズートは、ロシアや中央アジア諸国で製造される原油からナフサや灯油などを分離した残留物で、ソ連時代から家庭・発電所などで使用されています。日本の重油に例えると、船舶用ディーゼルエンジンや工場、発電所などで使用されるC重油に近いものであるとされています。ロシアにおけるマズートの生産量は年々減少していますが、米国からの経済制裁を受けたベネズエラや、燃料不足に陥ったイランなどでやむをえず低品質で環境負荷の高い燃料でも使用しなければならない状況に至り、マズートの需要はそれなりに存在していると考えられています。

 

こうした重油が流出し海洋汚染につながると、海の生態系にさまざまな影響が出ます。前述の事故では、事故発生直後から鳥が油まみれになり飛ぶことができなくなるといった影響がみられていましたが、悪天候に伴い油防除作業は難航し海洋汚染は深刻なものとなりました。

 

事故発生から1ヶ月が発生した同海域では、重油の被害を受けて死亡した可能性が高いイルカの死体が約60頭確認されています。ロシアなどが絶滅危惧種に指定しているバンドウイルカやネズミイルカが発見されており、特に小型な後者の被害が多くなっています。また、事故発生から約3週間後には32頭が確認されていた一方、1ヶ月後には58頭のイルカの死体が確認されていたことから、この重油流出の海洋生物への影響が短期的・長期的の両面で残っていることが窺えます

 

タンカー事故はどこの海域でも起こる

 

先述の事故が発生した場所は、いわゆる「チョークポイント」と呼ばれる、交通の要衝かつ航行が難しい海域でした。事故現場のケルチ海峡は、航行できる運河の幅が狭く、水深も浅いという特徴があります。こうした状況下では、航行する船舶の整備や点検を十分に行なった上で、専門知識に長けた人員を含め十分な乗組員で運用することが特に重要となります。

 

ここまで2024年末発生したタンカー2隻が座礁した事故を見てきましたが、2025年には日本でもタンカー座礁事故が発生しています。2025年1月6日、函館市ではタンカー「さんわ丸」が座礁する事故があり、燃料として積載していた重油が流出しました。この事故ではすでに油防除などの対応が済んでおり捜査段階に入っていますが、この事故では、座礁直前まで船長や船員がタンカーに危険を知らせる無線や船舶電話での連絡に応答しなかったことが明らかになっています。

 

船舶電話等に対し「さんわ丸」の乗組員が故意に応答しなかったのか、座礁を避ける試みで手一杯で過失として応答できなかったのかなどを含めて明らかになっている部分は少ないですが、座礁以前から不審な航路を辿っていたことなども含めて、事故原因の究明が進められています。

 

この事故では速やかに油防除作業が進められたことで、海洋生態系への大きな影響は見られませんでした。ただ、過去の事故を見てみると日本でもナホトカ号事故のような環境への大きな負荷を伴う事故が発生しており、環境保護のためには事故を起こさないための取り組みをより強化する必要があると考えられます。

 

タンカー事故を防ぎ海洋環境を保護するために

 

タンカー事故というリスクを減らすためには、これまでに発生した事故原因や各事例での現場対応などを研究することで、航行する上でどのようなポイントで事故が発生しやすいのかを明らかにすることや、船舶の整備や点検を厳格化すること、乗組員における有資格者や高位資格者の割合を増やすこと、乗組員の労務管理を徹底することなどの取り組みが挙げられます。日本国内でも、国外であっても、船舶の安全な航行を確保し、確実に貨物を運送しながら環境保護にも努める姿勢が重要です。

 

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