大分市佐賀関の火災の原因を地域特性から分析──冬季の火災リスクと木密・空き家問題の危険性
- Hinata Tanaka

- 11 分前
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佐賀関の火災は、木造住宅の密集と強風により短時間で拡大した可能性が高い
冬はストーブやたき火など季節特有の火災が増え、乾燥や強風で延焼しやすい
木造密集地域や空き家の多い地域は地震火災のリスクも高く官民の対策が必要
こんにちは、サニーリスクマネジメントです。11月18日の夕方に発生した大分市佐賀関の火災。発災2日後には居住区域の鎮圧(*1)が確認されていますが、11月21日8時時点で死者・安否不明者・負傷者各1名の被害のほか、100名以上の住民が避難しています。今回はこの火災について振り返るとともに、冬に向けて増える火災のリスクや地震火災との関連をみていきます。
(*1)鎮圧とは、火災の拡大の危険がなくなった状態を指します。(再燃火災防止規程第2条②)
【目次】
佐賀関の火災の概要
火災が発生したのは、「関さば」などが有名な大分市の港町・佐賀関(さがのせき)。木造の住宅が所狭しと立ち並ぶ町の中で火の手が上がりました。建物が密集していたことと木造住宅が多かったことで、消防車両が現場そばへ向かって消火にあたることが難しく急速に延焼。火災発生当時は強風注意報も発令されており、人家のある半島部分から1.4kmほど離れた蔦島(つたしま)まで飛び火しました。
被害を受けて、大分市災害対策本部は火災発生当日に県へ災害救助法の適用を申請。翌日には同法が適用され、大分県をはじめとした近隣の県・自衛隊による消火活動に加えて、避難した住民への支援も急速に進められています。さらに、佐賀関に製錬所を有するJX金属も支援を表明。2016年に新潟県糸魚川市で発生した火災を上回る規模の局地的な火災ですが、町の外からのアクセスがしやすかったことや地域での迅速な避難が行われたことで支援も進んでいます。
11月21日8月時点では蔦島の消火活動が続き、また居住区域も完全な消火を意味する鎮火の見通しは立っていません。国・県や近隣自治体と地域が協力しながら、鎮火と復旧、生活再建に向かって動き出しています。

佐賀関の火災の原因は?冬に向けて増える火災
町に大きな被害をもたらした今回の火災ですが、佐賀関はもともと火災の起きやすい地域だったのでしょうか。ここからは大分市消防局の『令和6年予防白書』(以下、「予防白書」)をもとに地域の特性を見ていきます。
予防白書では、令和6年の佐賀関地区の建物火災の件数は6件とされており、市内の火災の約3.6%を占めています。建物件数と人口(7,120人)を参考に人口1万人あたりの火災件数(出火率)を計算すると、約8.4件/万人であることがわかります。総務省消防庁による『令和6年版 消防白書』によれば、令和5年の出火率の全国平均は3.1件/万人であり、佐賀関の人口規模を考えると火災が起きやすい地域であると考えることができるでしょう。また、面積1㎢あたりの火災は約0.121件/㎢、人口密度は約144人/㎢といずれも数値が小さいことから、1軒の住家等での出火リスクが高い地域だということがわかります。
また注目したいのが、佐賀関地区での出火原因数。佐賀関の火災の原因については11月21日8時時点で特定には至っていません。当記事でも本件の原因を探るものではなく、出火原因の傾向を検討するものにとどめます。2024年までの5年間に佐賀関地区で発生した22件の火災のうち、出火原因はたき火が6件、ストーブが3件、たばこが2件。ストーブによる火災が上位にあるのは大分市内でも佐賀関地区のみでした。
そして、だんだんと寒さが増す秋こそ火災に注意すべき時期です。現在は様々な暖房器具がありますが、特に灯油ストーブや電気ストーブは火災の原因となりやすい器具です。暖をとりやすい一方で、「寒くなったしそろそろストーブつけるか」と押し入れから出した時が一番の注意ポイント。1年ぶりの使用で不具合が起きたり、夕方に使い始めて夜間の火災になったりする可能性があったり、消し忘れによって気づかぬうちに火がついていることもあります。
さらに、秋から冬にかけて空気が乾燥したり風が強くなったりすると、火災の原因や種類を問わず延焼のリスクが大きくなります。火災の危険のある製品の使用やたき火・たばこなどの火の始末にはいっそう気を配らなければなりません。

木密地域・空き家問題と地震・火災のリスク
ここまで佐賀関が火災の起きやすい地域である可能性が高いことを振り返りましたが、同様に建物が密集していたり木造住宅が多かったりする地域は全国にあり、例えば東京都の山手線外縁がそれにあたります。東京といえば大都会のイメージがありますが、23区内でも世田谷区や大田区など住宅が密集していたり古い木造住宅が残ったりしていることから首都直下地震における揺れや火災の影響が大きいとされている地域があります。
震源が都市の真下にあることで人々が活動する都市部で大きな揺れが起こると予想される直下型地震では、建物が倒壊したり電柱が倒れたりする危険があるほか、冬や夕方に発生すれば暖房器具の使用や炊事などで火災の発生リスクが上昇します。十分な防火や初期消火の対応ができれば良いですが、例えば首都直下地震では最大震度7を想定していますが、こうなるとまず自分の身を守ることで精一杯、ライフラインも止まる可能性があり、建物の倒壊と発火・延焼という二重の危険があります。
また、地方の過疎化が進んだ地域では空き家問題も顕著です。解体費用の高騰や売却の問題、相続問題など様々な理由で解体されない空き家が多く残る地域──皆さんのお住まいの自治体にもあるでしょうか。景観や治安の問題もさることながら、空き家の火災リスクがはっきりと現れたのが今回の佐賀関での火災だといえるでしょう。空き家には当然ながら住民がいないため、火災発生の確認が遅れたり初期消火活動が行われなかったりしますし、そういった木造の空き家が密集していれば火の手はあっという間に広がります。これは前述の地震火災におけるリスクにも直結していますし、実際に過去の直下型地震である阪神・淡路大震災では人々が避難して誰もいなくなった町の住宅で起こった通電火災(停電後、電気が復旧した際に発生する火災)という事例があります。本記事の最後に内閣府による首都直下地震の被害を想定した動画を添付しています。木造住宅密集地域での火災のシュミレーションが含まれていますので、関心のある方はあわせてご覧ください。

冬や災害時の火災を減らすために
これからより寒さが厳しくなり、いつどこで地震が起きてもおかしくない状態は依然として続きます。火災の発生とその影響を減らすためには、国は自治体といった行政の対応だけでなく、地域や個人での対策も重要です。
木造住宅が密集しているいわゆる「木密地域」対策は、行政が地区を横断して対応した例があります。例えば先述の東京都では2012年から2022年まで「木密地域不燃化10年プロジェクト」が行われたほか、不燃化特区制度などの一部施策はさらに5年間延長し、いずれも2025年までに一定の成果を出すことを目標としています。
また、地域でも消防団や町内会を中心とした防火啓発やご近所同士の声かけなど、小さなことでも火災の発生に気づいたり初期消火を行ったりするきっかけにつながります。普段から避難経路を確認することや、火の扱いに気を配るといった小さなことが大切です。
【参考動画】
内閣府が公開している動画です。5分30秒あたりから木造密集地域(木密地域)の火災がピックアップされています。




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