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執筆者の写真Hinata Tanaka

市町村における災害対応機能の保全

こんにちは、サニーリスクマネジメントです。

近年、大地震や豪雨・豪雪がさまざまなところで発生している一方、災害対応を担う自治体の機能保全にも課題が見えてきています。課題解決に向けた取り組みもなされていますが、未だ上手くいかない部分も存在しています。

今回のブログでは、災害発生後の自治体による初動対応・復旧・復興に関わる災害対応機能の保全について考えてみましょう。


庁舎が使用不能に


大災害や局地的災害が多い現代、さまざまなところで庁舎自体が被災し災害対応の機能を果たせない事例が発生しています。直近では、2023(令和5)年9月の台風13号による大雨で日立市役所が浸水した例があります。強雨に伴う急な増水が発生し、庁舎から駐車場を挟んですぐ東にある数沢川と平沢の合流地点が氾濫、辺りが浸水したほか庁舎の地階に川の水が流入しました。地階には排水施設がありましたが、想定を超える流入量のために排水が追いつかず浸水。この浸水に伴って地階に設置していた電源設備が使用不可となり約1日停電、一時的に業務を停止せざるを得ない状況となりました。


日立市が提供しているハザードマップを見てみると、市役所周辺の内水浸水想定(*1)は少なくとも0.2m~0.5m未満、数沢川に面した東側では1.0m~2.0m未満、一部で2.0m~3.0m未満と示されており、今回の地下の浸水は最大1.2mとなっています。現在の庁舎は2011(平成23)年の東日本大震災で旧市庁舎にひび割れが発生したことから地震に対してより強固な設計で建て替えたものでした。小河川は氾濫による浸水規模が大河川に比べて小さいために災害対応において軽視されることがありますが、実は流路が短く急勾配の川も多く、局地的豪雨が発生すると瞬く間に増水して浸水につながったり、他の川の支流である場合はバックウォーター現象(本流の増水により支流がせき止められたり逆流したりする現象)が発生する可能性があったりと警戒すべき点が多いものなのです。

(*1)想定最大規模降雨(1000年に1度の雨)により既存の排水施設で処理しきれない内水が氾濫した場合に想定される浸水区域及び水深。


このほかにも、直下型地震による庁舎の崩壊が多く見られます。直下型地震とは都市の真下で発生する地震を指しており、多くの建物の存在する地点の浅いところに震源があるために建物に対して地震のエネルギーが短時間でダイレクトに伝わります。1995(平成7)年の阪神・淡路大震災では震度7を観測した神戸市役所2号館が大きく被災。8階建の庁舎のうち6階が潰れ、その上の7階と8階も揺れに沿ってスライドし階下からはみ出すような形となりました。神戸市については職員自身の被災や交通の途絶等によって登庁できた職員が少なかったという課題も見られました。


また、2016(平成28)年の熊本地震では本震で震度6強を観測した宇土市の市役所が被災。宇都市役所の当時の庁舎に関しては、すでに建設から50年が経過しており老朽化が深刻であったことや2003(平成15)年の耐震診断で、震度6強程度の地震で大きな被害を受ける可能性が高い一方でバルコニーの外側にアウトフレームのような細い柱があるといった複雑な構造によって補強が困難なために建て替えを推奨するという結果が出ていたことを踏まえて、2016年当時は建て替えに関する本格的な議論が行われていました。建て替えに関する協議が進められていた最中に地震が発生し、庁舎はアウトフレームのような細い柱が外れたり折れたりしたことで部屋部分を支えることができなくなり5階建のうち4階が崩壊、それに従って5階もぐにゃりと沈むような形で倒壊寸前となっていました。


地震による庁舎の被災は、直下型地震だけでなく海溝型地震でも発生します。海溝型地震はプレートが大規模に移動するため地震そのもののエネルギーが大きく、広範囲に伝播するのが特徴で、長時間の揺れや震源が海底の浅い部分にある場合は大きな津波を伴います。次に示すのは、2011年の東日本大震災で震度6以上を観測した8県において、本庁舎が地震・津波によって被災した市町村数を示した表です。

震度6以上を観測の

被災市町村数

都道府県(市町村数)

地震

津波

合計​

​岩手県(34)

16

6

22

​宮城県(35)

29

3

32

​福島県(59)

36

0

36

茨城県(44)

33

1

34

栃木県(27)

26

0

26

群馬県(35)

18

0

18

埼玉県(64)

31

0

31

千葉県(54)

38

0

38

合計(352)

227

10

237

中央防災会議(2011)をもとに作成。


東日本大震災をもたらした東北地方太平洋沖地震はM8~M9クラスの海溝型地震で、非常に大きな揺れが160秒から170秒、2分半以上続きました。M7クラスの直下型地震であった熊本地震の揺れの持続時間が20秒であったことを考えると、海溝型地震では建物に長時間負荷をかけるという意味で直下型地震とは異なったストレスがかかります。また、津波による庁舎の流失や、庁舎が残ったとしても書類やコンピュータ等の業務に必要なデータや物品が津波で流された事例もありました。


対策に課題


大災害が発生するたびに現地ではさまざまな課題が見出され、復旧・復興の過程でその課題を克服したり改善したりするための議論や対策が実施されてきました。ただ、国内の自治体や庁舎の多くではその対策が理想とするラインまで達成されているとは言い難いでしょう。


まずは財政の課題が挙げられます。例えば大きな庁舎の建て替えをするとなると、数億円規模の予算が必要になるほか、計画や工期にも多くの時間を要します。多くの自治体では、そもそもそれだけの予算を負担できない、予算が付きにくいという課題があります。また、公務員は数年に一度部署異動があるために防災や減災に関する知識や経験が定着しづらかったり、そもそも地域によって経験してきた災害が異なるために特定の災害にはノウハウがあるがそれ以外には対応できないといった状況が発生したりしています。


リスクマネジメントの鉄則の一つとして「冗長性」(リダンダンシー)という考え方があります。これは簡単にいうと「余分に持っておく」ということで、例えばバックアップセンターを既存のものとは別に安全性の高い地域に1つ設置しておくとか、非常用電源設備を建物から少し離れた安全なところにもう1つ設置するといったことがこれにあたります。


ただ、冗長性確保のために設置しているものは本来緊急時に使用するものが何らかの使用できなくなった場合の代替、いわば2軍として準備しているものなので、予備の会議室等平時でも併用できるものがある一方、本来の運用方法である「緊急時の緊急」の場面でしか使用できないものもあり、実際に災害が発生してみないとその効果が検証できないということから、やはり資金面や費用対効果などの理由で実行は難しくなっています。


災害対応の中枢


市役所や町役場といった自治体の役所とその職員は、災害発生時には災害対応の中枢となります。災害に対しては発災前のリスクマネジメントも発災後のクライシスマネジメントも原則として市町村主導で行われ、災害対策本部としての機能が非常に重要となります。


そして今回も取り上げている庁舎の被災ですが、本来災害対策本部を設置する庁舎が被災すれば、災害対策本部は付近の避難所や消防署等の公的機関に移動したり、避難所等が被災している場合は駐車場などにテントを張ってそこに設置したりしなければなりません。クライシスマネジメントでのタイムロスを少しでも減らすことで迅速な情報伝達など素早いスタートを切ることができます。また、建物を想定される災害に対して強化することで庁舎での職員の被災も防ぐことができ、最大限のマンパワーをクライシスマネジメントに活用することもできます。


現代では地方公務員数は減少傾向にあり人手不足の市役所が増加していることに加え、未曾有の災害や想定しない被害が多く発生することで職員自身が被災したり登庁できなかったりといった事例も散見されます。国内の自治体においては、災害時の業務に関して隣り合う市や隣県の市と協力協定を結んだり、市町村と都道府県の連携を強化したりとマンパワー不足を解消したり質の高い災害対応を実施したりするための取り組みが行われています。




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