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影響増大する食品リコール:食品産業とクライシスコミュニケーションの深い関係

こんにちは、サニーリスクマネジメントです。


今回のブログでは、私たちの生活において最も身近にあるもののひとつである「食品」に深く関わるトピックを取り上げます。普段商品として流通している食品の多くはHACCPなどの統一された厳しい基準をもとに管理されており安心して食べられるものですが、近年になって食品リコールの影響が増大している傾向にあります。


今回は、この「食品リコール」をカギとして、食品産業とクライシスコミュニケーションの深い関係についてみていきましょう。

 

食品産業に求められる「クライシスコミュニケーション」とは

 

食品の製造・加工や販売において、そのラインの衛生を保ったり、商品を検品してその結果を記録したりすることは食品衛生の維持の観点から必須です。2021(令和3)年の食品衛生改正により国内全ての食品事業者に対してHACCPの導入が原則義務付けられ、食品におけるリスクの発現を減らす制度的な取り組みが行われてきました。

 

食品産業におけるインシデント(=表示不適切、規格不適合、品質不良、異物混入や予期せぬ成分の生成等)を減らす取り組みが国や各社で実施されていますが、それでも発現確率をゼロにすることができないのがリスクです。食品産業におけるリスクにはヒューマンエラー(過失)と悪意ある攻撃(故意)の2つがあります。このうち前者は生産が進んだ段階や商品流通時の顧客からの問い合わせ等で発覚することが多く認知が難しかったり遅れたりしやすいことや、災害や停電、システムの不具合などの予期せぬ事態の発生によるリスク発現も考えられるため、生産体制に万全を期していたとしてもリスクが発現しやすく防ぎにくい傾向にあります。

 

そのような状況で食品産業に求められる危機管理(クライシスマネジメント)のひとつに、「クライシスコミュニケーション」があります。一般には「危機管理広報」と呼ばれますが、ここでの「クライシスコミュニケーション」は、インシデント発生後における企業から他社や顧客に向けたコミュニケーションを指しています。特に身体や健康に被害が出る可能性があることから、顧客(消費者)に対するコミュニケーションは重要であり、食品関係のインシデント発生時には、いかに早く・分かりやすく・丁寧に顧客対応を行うことができるかが企業の命運を左右します

 

増大する食品リコールへの反響

 

現代の食品リコールについては、件数が増加している可能性がある一方で、食品リコールが発生した場合における社会の反応や反響が大きくなりやすくなっている可能性があります。

独立行政法人農林水産消費安全技術センター(2015)によると、食品の自主回収件数は2010(平成22)年から増加傾向にあり、2014(平成26)年には年間で1,000件を超えており(*1)、食品リコールの件数自体が増加傾向になった時期があったことがうかがえます。

また、2018(平成30)年の食品衛生法及び食品表示法改正に伴い、2021(令和3)年6月からは食品リコールを行った場合の行政機関への届出が義務化されたため、自主回収の顕在化により認知数が増加したことも考えられます。

(*1)独立行政法人農林水産消費安全技術センター(2015)「平成26年度における食品の自主回収状況について」, 『新大きな目小さな目』, No. 41.

 

こうした状況の中で確実に増大しているのは、食品リコールが発生した際の反響です。2024年に入ってからすでに紅麹サプリメントとそれを使用した食品や豚まん、食パンなどの自主回収が発生しています。中には健康に重大な影響を及ぼしかねないものもあり、メディアなどで大きく取り上げられました。

 

これまでに発生した食品インシデントにおいても、新聞やテレビなどのメディアで大きく取り上げられた事例がありました。しかし、現代においてはSNSが大きく発達しており個人間のコミュニケーションが活発化していることから、1件の食品インシデントで大きな反響が発生する可能性が大きくなっています。

 

SNSの発達に伴い新たに留意すべき点は次の4点です:

①消費者のSNS投稿で食品インシデントが発覚する場合がある

②企業の対応について物議が発生する可能性がある

③食品インシデントに関してデマや流言が広がる可能性がある

④対応次第では顧客の印象を回復する機会にもなりうる

 

①については、実際に2023年に、ハンバーガーへの異物混入に関する画像付きの投稿が複数ありました。SNS利用者の中には食品インシデントを直接企業に報告するだけでなく、プラットフォームに投稿する人もいます。また、怒りや不満を思いのままに綴る人もいるため、その投稿が多くの人に見られたり炎上したりすることで、状況が深刻化することも考えられます。

 

②は2023年にイベントで販売されたマフィンの自主回収でみられました。この事案では販売者が個人で事業を行い、営業情報から回収情報に至る様々な広報をSNSで行っていたことから回収情報の案内等に関する投稿に多くのコメントやリポストが付き、販売者の対応や製造方法などに関して物議を醸しました。

 

③は、2024年に発生した紅麹成分を含む健康食品に関する事案で確認されています。NHKが報じたところによれば、この事案で問題となっている成分は「紅麹(紅麹原料)」であるにもかかわらず、SNSでは、食品衛生法で異なるものとして定義されている食品着色料「ベニコウジ色素」が危険だとする誤情報やそれらを混同した投稿が相次いだり、当該健康食品の販売元社長の記者会見について本来述べられていない内容を含んだ動画が拡散されたりしていることが確認されているということです。

 

SNSの発達によってこのようなリスクが新たに懸念される一方、④に挙げたように、企業が適切な対応を行った場合は消費者からの印象の回復やレピュテーションの維持向上を期待できる可能性もあります。

 

迅速かつ正確・詳細で誠意あるコミュニケーション

 

食品インシデント発生時には、いかに早く、正確で詳細にクライシスコミュニケーションを行うことができるか、コミュニケーションを通して消費者等に対して誠意を伝えることができるかということがポイントとなります。

 

特に食品インシデントは特に人体の健康に関わる事案であるため、疑われる健康被害や原因などを詳しく説明することと、インシデントの発生とその影響に対する謝罪、リコールの案内はとりわけ重要な事項です。


万が一の際にこういったクライシスコミュニケーションを実施するためには、あらかじめスキームを策定しておくことと、それに沿った訓練も必要になってきます。


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